良い、冬休みだったようだな~。

2011-09-22

俺はいわゆる“自由業”を生業にしているため、二月に再度冬休みを取って富山に向かっていた。
目的は唯一つ“甘エビ”を喰いに行くことだ。
俺は愛車のレガシーB4を飛ばしていた。
こいつはフルタイム4WDのため、スタッドレスを履かなくてもたいていの雪道やアイスバーンだったら、何となく走破してしまう。
そうは言っても、俺はきちんとスタッドレスを履いて東京を出発した。
東京を出てから六時間、時刻はすでに二十三時をまわっていた。
あたりに車の姿はなく、俺はラリーのスペシャルステージのごとく、レガッチ(俺のレガシーの愛称)を飛ばしていた。
雪煙りをあげて、各コーナーをドリフトさせながら抜けて、直線では目いっぱいにスロットルを踏みつける。
レガッチは、俺の意志どおりに雪と氷の世界を乱暴に、かつ緻密に駆け回った。
楽しい、本当に楽しい。
世の中にこんなに素晴らしい瞬間があるのだろうか、と俺は気持ちの昂りを抑えることができないぐらいに嬉しかった。
もうすぐヒルクライムを終わろうとする時に、前方からヘッドライトの灯りが見えた。
これはヤバイと俺は直感した。
なぜならば、その灯りはふらつき、光軸がまるっきり安定していないからだ。
案の定、俺にとってはコーナーの出口、相手にとってはコーナーの入り口と言うところで出会ってしまった。
そして、相手の車は俺がトレースして通り過ぎたラインにスライドして入って行った。
後一秒ぐらい遅かったら、側面衝突だった。
相手の車は、思った通りに側溝に突っ込んだ。
速度が遅いので、まあ、怪我もしてはいないだろうが、このままではどうにも動きがとれないだろうと思い、俺はレガッチをバックさせて現場に着けた。
俺は側溝にキスをしている車に近づき、コックピットを確認すると若い女がステアリングに突っ伏し、呆然と前を見ていた。
前を見たところで、突っ込んだ雪しか見えてはいないだろうにと思うが。
「やあ、今晩は。生きてる?」って、俺は冗談で大声を出した。
「なんてこと言ってるのよ。早く出してよ。ここから出して」と、女は大声でわめきながらステアリングを思い切りたたいたものだから、エアバッグが軽い爆発音とともに開いてしまった。
彼女はその現象に、思わず言葉を失い、失語症のような状態が五〜六分続いた。
その間俺は、この車(VWゴルフGT)が燃料漏れなどを起こして危険な状態になっていないことを確認した。
「もう大丈夫だぜ、今引っ張りだしてやるからね」と言い、雪で開かない運転席を空けるのを諦め。
反対側のドアを開けて、彼女の手を握って引っ張りだした。
俺は携帯でJAFを呼んで、ゴルフが引きあげられるまで付きあった。
結局ゴルフは、タイロッドに損傷を受けていて、走行ができないわけではないが危険と判断された。
この時間にディーラーが空いているわけもなく、俺も牽引ロープは持っていないので、直近の駐車所にゴルフを運ぶことに決めた。
駐車場まで彼女を乗せて行き、更に彼女の住まいまで送って行ったら、夜が明けてきた。
彼女は地元のサブコンの社長令嬢(じゃじゃ馬としか思えない)で、俺のレガッチの中から家に連絡をしていたらしく、家の前では両親が待ち受けていた。
次の日から、彼女の親父殿の接待が始まり、俺の休暇は台無しになった。
しかし、親父殿は豪快で、体育会系丸出しの人で、俺とは気があった。
また、俺が独立独歩で人生を歩き始めた事が、何となく好ましいようだった。
次第に親父殿とは仲良くなり、三日目の深夜、二人で酔っ払って彼女の家になだれ込み、お互いに意識を失くして、朝になってびっくりしたものだ。
そして、彼女は今、俺の婚約者だ。
二カ月後に俺たちは結婚する。
何と不思議な出来事だろうか。
俺は、彼女も、彼女の親父殿も、お袋様も大好きだ。
良い、冬休みだったようだな〜。

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